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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1168号 判決

控訴人(原審甲事件被告・乙事件原告)

中村富夫こと

張富夫

右訴訟代理人弁護士

加藤豊三

被控訴人(原審甲事件原告・乙事件被告)

岩嵜惠壽

右訴訟代理人弁護士

横山昭

田尾勇

島田清

主文

一  原判決中、主文第一ないし第三項を取り消す。

二  右取消に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  その余の本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決中控訴人の予備的請求棄却部分を除く敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録一記載の建物を明け渡せ。

4  被控訴人と控訴人との間で、控訴人が原判決別紙物件目録一記載の建物及び同二記載の土地について所有権を有することを確認する。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要及び当審における当事者の主張

一  事案の概要は、原判決書六頁一〇行目の「原告において」を「右各債務を連帯保証していた(乙五及び原審における控訴人本人)被控訴人において」に改め、同一〇頁二行目の「買戻特約付売買契約」の次に「(以下「本件買戻特約付売買契約」という。)」を、同一二頁二行目の「であった」の次に「(乙一〇)」を、同一三頁一行目の「一六〇〇万円」の次に「(以下「本件債権」という。)」を、同二行目の「当分の間」の次に「一か月」をそれぞれ加えるほか、原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これをここに引用する(なお、原判決の引用部分中の「本件建物及び本件土地二ないし六」及び「本件建物及び本件各土地」を後記引用部分を含めていずれも「本件各土地建物」に改める。)。

二  当審における控訴人の主張

1  控訴人は、被控訴人との間で、本件各土地建物の将来の値上がりを考慮して本件買戻特約付売買契約を締結したのである。本件各土地建物の当時の時価はせいぜい一二〇〇万円であったから一六〇〇万円の債権の担保としては不足しており、このような担保価値のないものを譲渡担保にとることは通常考えられない。また、本件買戻特約付売買契約の登記手続は保証書でなされ、被控訴人は通知書に署名捺印していることは間違いないから、被控訴人がその趣旨を知らないはずがない。被控訴人は、自ら作成した念書(乙一〇)において買戻特約付売買契約であることを再確認している。

2  被控訴人は本件買戻特約付売買契約が譲渡担保であると主張するが、被控訴人がその元利金を支払っていないことは乙第一〇号証により明らかである。また、仮に昭和四九年五月一四日に一六〇〇万円につき準消費貸借がされ、利息年一割五分、損害金年三割、期間三か月の約束があったとすると、昭和五一年六月までの利息、損害金は合計九〇〇万円(元利合計では二五〇〇万円)になり、たとえ原判決認定のとおり被控訴人から二八〇万円の支払があったとしても、昭和五一年六月一三日当時の残金は二二二〇万円であるから、被控訴人が信用金庫から一六〇〇万円の融資を受けてこれを控訴人に返済したとしても控訴人の右債権は消滅したことにならない。そもそも、控訴人が利息を取らず元金一六〇〇万円だけで済ませるような合意をするはずがない。

3  被控訴人は昭和五一年七月二〇日控訴人に対し念書(乙一〇)を作成し、元金一六〇〇万円の債務が残存することを前提に、再度本件各土地建物を代金二〇〇〇万円で買い戻す意思を表明するとともに、その期限を被控訴人が漁業補償金を取得するときとし、それまでの間毎月、金利分(月一分)一六万円と家賃四万円の合計二〇万円を控訴人に支払うことを約した。被控訴人が弁済として控訴人に支払った金員は右月額二〇万円の支払に充てられ、元金一六〇〇万円は未だ弁済されていない。

三  被控訴人の答弁

控訴人の主張は争う。念書(乙一〇)は被控訴人が作成した文書ではないので何らの証拠価値はない(右念書中には被控訴人が漁業保証金で二〇〇〇万円を支払うような記載があるが、漁業補償金の話が出始めたのはずっと後のことである。)。

第三  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件買戻特約付売買契約について

1  前記争いのない事実に甲五、一三、一四の一一、乙五、原審及び当審における控訴人本人及び被控訴人本人の各供述によると、次の事実が認められる。

(一) 被控訴人は、前記のとおり、昭和四九年一月から二月にかけて鳥飼の申立により家族と同居している自宅(本件建物)に仮差押えを受けたほか、その敷地(本件土地二ないし四)等について競売が開始されたことから、困った挙げ句控訴人に相談し、控訴人から右鳥飼に対する債務二〇〇万円及び組合に対する債務六〇〇万円の弁済資金として八〇〇万円の融資を受け同年五月ころ全額を弁済してことなきを得た。しかし、その結果として、被控訴人は、控訴人に対し、右合計八〇〇万円に被控訴人の前記近藤らに関する保証債務八〇〇万円を合わせた総額一六〇〇万円(本件債権)の債務を負担することとなったことから、昭和四九年五月一四日控訴人との間で、本件債権を担保する目的で本件各土地建物を一六〇〇万円で売却し三か月後に二〇〇〇万円で買い戻す旨の本件買戻特約付売買契約(本件各土地建物を他に処分して清算する旨の合意をしたことを認めるに足りる証拠はないのでその実質は帰属清算型の譲渡担保であると解される。)を締結し、本件建物及び本件土地二について所有権移転及び買戻特約の各登記手続をしたが、本件土地三ないし六については地目が農地で右登記ができなかったのでとりあえず抵当権設定登記手続をした。

(二) ところが、被控訴人は、右期間内に本件各土地建物を買い戻すことができず、このため被控訴人は、昭和四九年五月から同年一〇月まで毎月五万円、同年一一月から昭和五〇年七月まで毎月一〇万円、同年八月から昭和五一年六月まで毎月一五万円の合計二八五万円を支払い、控訴人から買戻期間を延長(実質的には譲渡担保権の行使を猶予)してもらっていた。

2 控訴人は、本件買戻特約付売買契約は担保目的の契約ではない旨主張(譲渡担保の主張(予備的)を撤回)し、控訴人本人(原審及び当審)においてその旨供述する。そして、被控訴人と控訴人との間で本件債権について金銭消費貸借契約書を作成したことはもとより前記買戻代金の四〇〇万円の上乗せ以外に利息、損害金の協議をしたことを認めるに足りる証拠はなく、買戻期間後に被控訴人が控訴人に支払った金員も当初は月額五万円と少額であった(月額五万円では年額六〇万円にしかならず、本件債権額一六〇〇万円の約四パーセントに換算され、一般に想定される金融業者の貸付金利水準に到底及ばない。)。

しかし、自己及び家族の生活拠点となる自宅及びその敷地を含む資産をわずか三か月後に買戻しをしなければこれを失うような売買契約をすることは何か特別の事情でもない限り考えにくいから、被控訴人は本件各土地建物に本件債権のため担保を設定したとみるのが自然である。控訴人としても、金融業者としてその関心は金融による利益の獲得にあり本件各土地建物に特別執着していた訳ではなく(原審及び当審における控訴人本人の各供述、弁論の全趣旨)、買戻期間経過後に被控訴人に本件各土地建物の明渡しを求めたり、新たに被控訴人との間で賃貸借契約を締結したと認めるに足りる証拠はない。また本件債権に上乗せして支払うことが約束された四〇〇万円は本件債権の利息に当たると解され、これを利息制限法所定の制限利率年一割五分で計算すると一年八か月分の利息に相当するから、買戻期間経過後に支払われた月々の金員が当初低額であったとしても、この四〇〇万円が支払われることを前提として考えれば当座わずかな金員の支払で控訴人が了承したことは取り立てて不自然ではなく、これを利息の支払とみて差し支えない。

これらの事情を総合すると、控訴人と被控訴人は、弁済期を昭和四九年八月一四日(買戻期間の最終日)、弁済期までの三か月分の利息を四〇〇万円(ただし、利息制限法に違反する部分は無効であるから、利息は年一割五分の割合の限度で有効である。)とし、損害金は具体的に定めないまま本件債権を準消費貸借に改め、これを担保する目的で本件買戻特約付売買契約を締結したものと認めるのが相当である(前記抵当権設定登記上は利息年一割五分、損害金年三割と記載されているが、このような合意をしたことは原審及び当審における控訴人本人及び被控訴人本人の各供述のいずれにも顕れておらず、債権金額も本件債権額と相違していることから、これを契約内容とみることはできない。)。なお、控訴人本人の供述(原審)及び乙五には、被控訴人から、三か月の期間をくれれば親族会議をして自分の借金を返済できるので組合と鳥飼からの借入金を肩代わりしてくれと言われ、被控訴人が本件各土地建物を二〇〇〇万円で買い戻すと約束したので、利益が見込めると思ってこれに応じた旨の部分があるが、右は被控訴人が本件債権額に四〇〇万円の利息を加算して返済することを控訴人に約束したことにほかならず、前記判断に反するものではない。

また、控訴人は、本件各土地建物の当時の価額は約一二〇〇万円で本件債権額に不足していたからこれを担保として取るはずがない旨主張するが、右主張が論理的必然性に欠けることはさておくにしても、被控訴人がほかに資産を有していなければ控訴人としても現にある本件各土地建物を担保にとることで我慢するしかないが、その当時被控訴人が本件各土地建物のほかに資産を有していたことを具体的に示す証拠はない。また当時控訴人が被控訴人に新たに貸し付けたのは八〇〇万円であり、残りの八〇〇万円は無担保の状態で既に存在していたのであるから、新たに八〇〇万円を貸し付けることで一二〇〇万円の価値の本件各土地建物を本件債権全部の担保に取れるのであれば控訴人としても十分利益のあることである。いずれにしても、本件各土地建物の時価が本件債権額を下回っていたことそれ自体は控訴人の主張を格別根拠づけるものではない。

3  さらに、本件各土地建物は被控訴人の自宅及びその敷地を含むいわば被控訴人にとってはかけがえのない大切な不動産であり、しかも買戻金額は二〇〇〇万円と高額であって短期間で買い戻せない危険性を否定できないことに加えて、被控訴人と控訴人との前記間柄を考えると、本件買戻特約付売買契約における買戻期間の三か月については本件債権の利息を支払いさえすれば延長されることが予定されていたものと推認することができる。控訴人は、右期間が経過した時点で本件各土地建物の所有権を確定的に取得した旨被控訴人に伝えたと主張し、乙五中にはその趣旨を述べる部分があるが、そうであれば控訴人が被控訴人との間で本件各土地建物の賃貸借契約を締結する等のことがあってしかるべきであるのに、そのような事実を窺わせる証拠はないから、右記載は信用できない。

二  被担保債権の弁済の有無について

1  信用金庫の融資、その返済状況及びその後の経過は、原判決書一六頁八行目冒頭から同二〇頁九行目末尾までに記載のとおり(ただし、原判決書一六頁八行目の「債務者として」の次に「前記抵当権設定登記記載の条件で」を加える。)であるから、これをここに引用する。

2  ところで、念書(乙一〇)及び当審における控訴人本人の供述によると、被控訴人は、昭和五一年七月二〇日付けで作成した念書で「中村様が木更津信用金庫から借り入れる一六〇〇万円の借入金につきましては私が責任を持って毎月金利分(月利一分)一六万円を家賃分として四万円の合計二〇万円をせめてもの私の気持ちとして支払います。又、買戻の件につきましては、漁業補償金がでましたら二〇〇〇万円を中村様にお支払いして、自宅の土地、建物(左記の物件表示)を買い戻す事を約束します。」と記載した書面に署名捺印してその旨約束していることが認められる(左記の物件として本件各土地建物が掲げられている。)。

前記のとおり控訴人の信用金庫に対する借入金の利息は年9.50パーセントであるから、右念書に記載された「毎月金利分(月利一分)一六万円」は信用金庫からの借入金についてのものではない。とすれば、右金利月額一六万円は本件債権の利息をいうものと解するほかなく、被控訴人が控訴人に家賃を支払わなければならない格別の事情は認められないから、家賃名目で支払われる右四万円についてもその実質は利息であると解される。そうすると、右念書により、被控訴人が漁業補償金を取得した時を本件債権の弁済期及び買戻期間とし、利息を毎月二〇万円(合意の趣旨は年一割五分の割合による利息の支払を約したものと理解され、利息制限法所定の制限利率の範囲内である。したがって、以下の利率計算は年一割五分として行う。)とする旨合意されたというべきである。

なお、被控訴人は、重要な書証であるにもかかわらず原審で提出されなかったこと等を捉えて乙一〇が虚偽文書である旨主張しているが、同書面の体裁、被控訴人の住所氏名の筆跡等にことさら不自然な点はなく、漁業補償金についても期間を明記せず将来的なものとして記載されており、被控訴人の署名部分は宣誓書中の被控訴人の筆跡と酷似している等の点からみて、特に不自然な書面とはいいがたい(被控訴人本人は当審において右署名押印部分の成立を否定する供述をしているが、当審の第二回口頭弁論期日には右署名押印部分の成立を認める陳述をしている。)。

3  したがって、被控訴人は、昭和五一年七月二〇日右念書を控訴人に差し入れることにより、同日から本件各土地建物を二〇〇〇万円で買い戻すとき(右念書によれば被控訴人が漁業補償金を取得するとき)までの間、控訴人に代わって同人の信用金庫に対する前記借入金債務を毎月二〇万円ずつ弁済する方法により本件債権の利息を支払うことを約束したことになる(もっとも、昭和五三年に被控訴人が漁業補償金を取得した後にも前記信用金庫への弁済が続行されていたことに照らすと、右弁済期及び買戻期間はその後当事者の合意により変更され、以後特に弁済期及び買戻期間は定められていなかったものと判断される。)。

4  被控訴人は、控訴人名義で信用金庫から借り入れた前記一六〇〇万円は被控訴人が控訴人名義で借り受けたものであり、右借入金をもって控訴人に本件債権全額を返済した旨主張しており、被控訴人の原審及び当審における供述、被控訴人の陳述書(甲五、一三、二〇、二六)及び信用金庫の従業員平野栄の陳述書(甲一一)にはこれに符合する部分があり、信用金庫作成の「入金案内」と題する書面にも返済金の振込人として被控訴人の氏名が記載されている(甲一〇、二七の二ないし七)。しかし、右「入金案内」と題する書面は融資金の返済者を記載したものにすぎず、右平野栄の陳述書も同様の域を出ないばかりか、却って右融資の債務者は控訴人であり被控訴人から返済がない場合には信用金庫から控訴人に返済を請求していた旨を明らかにしている。また、控訴人としても、本件各土地建物の買戻を引き続き猶予していればその間の利息を得ることができるのに、被控訴人に控訴人名義で融資を受けさせ融資金をもって本件債権の返済を受けるときは、右利息を取得できないことになるばかりでなく、万一被控訴人が信用金庫に返済をしない場合には信用金庫との関係では控訴人が債務者となっているため控訴人が信用金庫に返済しなければならない危険を背負い込むことになる。しかも控訴人は債権額に満たない本件各土地建物を担保にしているにすぎないことを考えれば、控訴人がわざわざこのように不利な合意をするとは思われないし、前記念書の記載からみても本件各土地建物の所有権を取り戻すには信用金庫に対する月額二〇万円の支払のほかに、二〇〇〇万円を控訴人に支払うことを要する旨合意されていることが明らかであるから、これらを総合すると、右被控訴人本人の供述及び陳述書は採用することができない。そして、ほかに信用金庫からの融資金をもって控訴人に全額返済した旨の被控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  不当利得の成否

被控訴人が控訴人に合計四〇〇万円を支払ったことは原判決書二三頁三行目冒頭から同二四頁二行目末尾までに記載のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決書二三頁五行目の「漁業保証金」を「漁業補償金」に、二四頁一行目の「同月」を「九月」にそれぞれ改める。)。

被控訴人は、控訴人の請求(これが本件債権に関する請求であることは弁論の全趣旨から明らかである。)に応じて右各金員を支払ったのであるから、右各金員は本件債権の弁済であり、民法四九一条一項によりまず利息に充当されるべきものと解されるところ、右四〇〇万円のうち一五〇万円は信用金庫に対する返済金として控訴人に交付され、このうち八一万円が計算上は信用金庫への支払に充てられ残りの六九万円は過払になっていると認められるので(原判決書一八頁七行目冒頭から同一九頁五行目末尾まで)、右四〇〇万円から一五〇万円を控除した残金二五〇万円に右過払金六九万円を加えた三一九万円については、前記信用金庫に対する返済金とは別の支払とみるべきである。しかし、被控訴人が信用金庫に返済した前記合計金額二一〇一万五九九三円に右三一九万円及び昭和四九年五月から同五一年六月にかけて本件債権の利息として支払った二八五万円を合算したとしても合計二七〇五万五九九三円にしかならず、本件債権を準消費貸借契約に改めた昭和四九年五月一四日から同六〇年八月二二日(一一年三か月と九日間)までの年一割五分の割合による利息合計二七〇五万九一七五円に満たないから、被控訴人主張の各金員はいずれも本件債権の利息に充当されたものと解される。よって、被控訴人の不当利得の主張は採用できない。

四  本件建物の明渡請求について

一般に譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内において認められるのであって、いわゆる帰属清算型の譲渡担保の場合には、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめることができるにとどまる。債権担保を目的とする買戻特約付売買契約にあってもその実質は譲渡担保であるから理屈において変わることはなく、債務者が買戻期間内に買戻をしない場合において債権者が適正に評価された価額で清算(清算金がない場合にはその旨の通知することにより初めて目的物件の所有権を確定的に取得するものと解され、買戻期間が定められていない場合には、債権者において相当の期間を定めて買戻権の行使を催告する必要があり、その期間の経過により初めて買戻期間が経過したものというべきである。これを本件についてみるに、前記認定事実によれば本件買戻特約付売買契約では本件各土地建物を清算のため処分することは予定されていなかったと認められるから、右契約は実質上いわゆる帰属清算型の譲渡担保に当たり、当初買戻期間を三か月として締結されたが、その後これが当事者間の合意によって延長され、以後本件債権の弁済期及び買戻期間が特に合意されないまま経過しているところ、この間被控訴人が本件訴訟を提起したこともあって近時は利息の支払がされていないが、控訴人において相当の期間を定めて買戻権の行使を催告したと認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人は未だ本件各土地建物の所有権を確定的に取得したとはいえないから、本件建物及び本件土地二についての所有権確認を求める請求はもとより本件建物の明渡を求める請求も理由がないことに帰する。

よって、原判決中、被控訴人の請求を認容した部分は失当であるからこれを取り消し、右取消に係る被控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人の請求を棄却した部分は正当であるからその余の本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新村正人 裁判官岡久幸治 裁判官宮岡章)

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